SUMMERY

目をつぶらない

滑らかに生きたい。明晰に生きたい。方途を探っています。

読書(文学)

思春期の性と身体をどう文学に描くか:村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』

小石川植物園 先日書いた近況報告のエントリで最近全然本が読めていないと書きました。今読むと、このエントリは一つの記事としてはあんまり長大で読みにくい部分があるのでそのうち分けるかもしれません。 summery.hatenablog.com そんな中でもしっかり読ん…

テッド・チャンにおける〈愛への信仰〉の主題―「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」(2010)から

大学一年生の時、シラバスでふと見つけた船曳ゼミに未だに参加しています。その読書会関連で標題に掲げた作品を読んだので、今日はそれについて考えたことを書きます。 ※この読書会の関連で読んだ作品について考えたことをまとめた記事として、他に以下のも…

作家・古谷田奈月さんについて 三島賞受賞作・「無限の玄」(2017年)まで

最近話題作を繰り出している作家として私は古谷田奈月さんに注目している。二度くらいにわけて、ちまちま調べた情報や、読んだ古谷田小説の感想について書きたい。 なお、他に村田沙耶香さんや高山羽根子さん、高橋弘希さんについても関心があり、それについ…

村田沙耶香、高山羽根子、雑記

さて、雑記なのですが、最近読んだ小説についてまずは一言ずつ感想を述べたい。 村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』(朝日新聞出版、2012年) publications.asahi.com 最近珍しいニュータウンを舞台にした小説。ニュータウンの開発やその停滞と第…

私にとっての「広島への最初の旅」

毎年この時期になると、高校時代の社会科ゼミナールで、8月6日〜9日まで広島に研修旅行に行ったことが思い出される。高校2年生の時だった。旅程は平和運動を行う高校生団体との交流や、町歩きフィールドワーク、公益財団法人放射線影響研究所・広島市立大学…

Silent Hill4 と最近読んだ現代小説

www.youtube.com 今週も忙しかったなあ。 折に触れて観直す動画が上に貼ったもの。Silent Hill4:The Roomというゲームのオープニング動画であるのだが、現れる異形のものたちの表象が見事だと思う。ゲーム内で「ゴースト」と呼ばれる彼らのいずれも、大きな…

高橋弘希『送り火』の語り手に対する違和感

毎日疲れる。心地よい疲れと、身体が重くなるような倦怠と、その狭間にある。これ以上忙しくなると疲弊していきそうな、そんなギリギリなところにいる気がする。この生活の破綻もそう遠くないかもしれない。 高橋弘希の『送り火』を読んだ。第159回芥川賞受…

なぜ「信仰」なのか 柳田国男・丸山眞男・大江健三郎に学びつつ

柳田と丸山の新書を読んだ ここ数日柳田国男と丸山眞男に関する新書を読んでいた。具体的に読んだのは以下の二冊。 柳田国男 ──知と社会構想の全貌 (ちくま新書) 作者: 川田稔 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2016/11/25 メディア: Kindle版 この商品を…

橋本治の死去に驚く:「ずっと若い人」の死

橋本治が死んだ タイトルどおり、作家・橋本治さんのご逝去に驚いた。 作家の橋本治さん死去 70歳 | 2019/1/29(火) 18:13 - Yahoo!ニュース 橋本治については以前別のブログに書いた。そこから少し長めに引用しておきたい。 引用元記事 queerweather.hatenab…

「安心してどうするんですか死ぬだけなのに?」 うーん

久々の更新であるのに、前回の更新から経た歳月などなかったかのように書いてしまうのだけど、飯田橋文学会主催の文学インタビューを聴いて来た。今回は詩人の高橋睦郎さんに対するインタビューである。この企画は現代を生きる作家の生の声を聴くという趣旨…

物語を読めないと死ぬ Jホラー映画の論理と『リング』

物語ることで生きる 人は生きる中で、自分の人生の物語を措定する。本当は大部分偶然が重なって、たまたま今のような自己があり、またこれからも同様に大部分偶然の作用によってこれからの生が形作られていくはずだが、それらの偶然に意味づけをすることによ…

フィリップ・K・ディック『高い城の男』:偽の歴史と二項対立

大学一年生の時、シラバスでふと見つけた船曳ゼミに未だに参加しています。文化人類学者の船曳建夫先生のゼミです 最近、そのゼミの読書会で、フィリップ・K・ディックの『高い城の男』という作品を読んだので、感想を書いておきます。 高い城の男 (ハヤカワ…

繊細さを失わず、生活を見つめる:津島佑子「水辺」

昨夜は眠れなかった。築30年を超える私のアパートの窓は、時折激しくガタガタと鳴って、その度にまどろみから覚まされた。そして、このような嵐の夜に、その風雨の影響を受けず曲がりなりにも睡眠をとることができるとはなんということだろう。住むべき家が…

物語の力/創作の力とは何か

最近、twitterで自分と同じように、中高の教員をしている人をフォローするようになった。そうしてフォローした中の一人がつぶやいた以下のようなつぶやきが、昨日私のタイムラインに投稿された。二つの企業に内定した卒業生に対して、教員をしているツイッタ…

「懐かしい」とは何か? 大江健三郎『M/Tと森のフシギの物語』

毎日なかなか疲れる。そもそもこれまでずっと座りっぱなしの生活を送って来たのだが、今は毎日、二時間は立っている。もちろん電車で。それなりに空いている電車に長時間乗るのが私の通勤スタイルで、生活のあり方としては、どちらかといえば健康的になった…

悲しみとの共生:大江健三郎「資産としての悲しみ—再び状況へ(五)」

物語に倦んで、ふと手にとった『世界』(1984年7月号)に大江健三郎さんのエッセイを見つけた。「資産としての悲しみ−−−再び状況へ(五)」と題されたこのエッセイは、『生き方の定義−−−再び状況へ』という単行本に収録されることになった。 ci.nii.ac.jp 単…

ラインは本当に疲れる/トーマス・マン『魔の山』

ラインは本当に疲れる。私がコミュニケーションに期待をしすぎているのかもしれない。返信が来るとテンションが上がり、「すぐに見たい」と思うし、来ないなら来ないで「いつ来るのかな、これだけ遅いということは、何か変なことを書いてしまい、相手が怒っ…

購入すると読む気がなくなるの、本当に罪深いと思う

誰にでもあるだろう、衝動買いの経験。今日私も久々にやってしまった。 ことの発端は、新宿のブックファーストで見かけたソローキンの『青い脂』という本。 青い脂 (河出文庫) 作者: ウラジーミルソローキン,Vladimir Sorokin,望月哲男,松下隆志 出版社/メー…

久々にどっぷりと読書に浸る。 谷崎潤一郎『細雪』

久々にどっぷりと読書に浸っている。「小説の先が気になって、夢中で読みふける」という体験の只中にある。 修論執筆中は、「夢中で読みふける」ことはしなかった 思えば、修士論文執筆中にはこのようなことを経験しなかった。修論で対象にしたのが牽引力を…

『騎士団長殺し』を読み終わった

『騎士団長殺し』を読み終わった。異様な小説だな、と思った。過去二つの記事で述べた、漠然とした底の浅い印象。それが、筆者の意図的なものかもしれない、とラストを読んで思う。何かが解決した気がしない。あえて解決させない、という意思が読み取れる。 …

東日本大震災後と人間性 川野里子さんへのインタビュー記事における石牟礼道子『苦海浄土』

歌人の川野里子さんが、中国新聞のインタビュー「詩のゆくえ」で、石牟礼道子『苦海浄土』に関して一言よせている。その一言に強く惹きつけられた。 言わずもがなかもしれないが、『苦海浄土』とは水俣病の発生から終息までを著者石牟礼が追った一種のルポル…

『騎士団長殺し』における「メタファー」という言葉への違和感、それと雑記

どうしてもうまく寝付けず、今日は4時に起きてしまった。猫を抱いたために両手がふさがり、本を読むことができなかったので、宙を眺めていたのだが、そうしていると、これまでのこと、そしてこれからのことが渦を巻いて頭を占拠してくるようで、たまらなくな…

人が年をとるということ。その中で文学的課題を発見していくということ。黒井千次さんのインタヴューに参加してきました

先日書いた通り、飯田橋文学会の文学インタヴューに参加してきました。大変良かったです。一人の作家が、時に応じてどのように自己の文学的な課題を発見していくか。それにいかに向き合っていくか、という過程をありありとお話くださいました。 www.lib.u-to…

最初にやりたかったことってなんだろう。

今日は遅く起きた。眠い目をこすってiPhoneで新聞を一通り読んだ後、大学の図書館に行った。午前中いっぱいは黒井千次の『時間』という作品集の中の中編「時間」を読んだ。 時間 (講談社文芸文庫) 作者: 黒井千次 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 1990/01 …

物語の力の物語:村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』

ノモンハン事件の話って、本編に関係ないのでは……? 日本の第二次世界大戦に関わる話を、一見その戦争とは全く関わりのないように見えるフィクションに挿入することの効果について。また、それがどのような意義をもつのかについて、何故とりわけ戦争の話なの…

物語る力の減退?『ねじまき鳥クロニクル』と『騎士団長殺し』

『騎士団長殺し』を読み始めました。 村上春樹の『騎士団長殺し』を読んでいる。購入のきっかけとなったのは、鴻巣友季子さんの以下の言。 ただ「異世界につながる穴」や「(夢の中で行われる)実体のない性交」など、過去の作品で出てきた多くのモチーフが…

選ばれたものになるまでのゲーム:サイレントヒルP.T.

村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』を読んでいて、サイレント・ヒルの広告として作られたP.T.というゲームを思い出しました。村上春樹の作品はゲームのプロットに似ているという話を聞いたことがあったけれど、PTは特に通じ合っているのではないかと思っ…

転換のトラウマ:『燃えあがる緑の木』

書いたことを公にするのに倦んでいた。日記はひたすらに書いていたのだが、それらは公にするにはあまりにも私的だったり、文章がおぼつかなかった。webライターと呼ばれる人々が呼吸をするようにいつもの文を紡いでいるのだったら、確かにそれは技術だと思う…

34『それから』の代助の耐えられない若さ

大学に入ってから『それから』を何度も読んでいるが、私はかなり自分勝手な読み方をしており、例えば今日このエントリを書くために一応と思って調べてみるまで、主人公の代助が30歳だということを思ってもみなかった。もっとずっと若いと思っていた。椿の花…

19『同時代ゲーム』-1

『ねじまき鳥クロニクル』と同時に、『同時代ゲーム』を少しずつ読み進めている。まだ大したことは考えていないので、メモ程度にする。 ○この作品を読む中で自分の中で一つ明らかになったのは、大江健三郎という作家の一つの特徴である。主人公=語り手の語…