目をつぶらない

文学を専門とする大学院生の日記です

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 ウミガメセンターを訪問した日は大雨だった。熱帯の島に降る雨を見て僕は嬉しくなったものだ。遠くにガジュマルの木が横に一列になっているのを見る。それらは神秘的な壁のように立っているから、僕はそれより先にある、小さな山を見通す事が出来ない。

 このウミガメセンターに一匹、何かの特別な作用で、他のカメよりも更にまた色素が薄く、従ってより空の青に近いような色で生まれてきたカメが居て、それを僕はぼんやりと見つめていたのだ。僕以外の誰もいなかった。東京での生活、僕は本土での東京の生活を思う。じめじめした陰気な部屋で、雨戸をしめて僕は1時間ほど座っていた、それが真っ先に思い出された。そのようなことをしたのは、東京での生活を100とすれば0.01くらいのもののはずだ。けれどもそれが一番に出てきた。僕は静かで暗い場所に居たい。例えば雨の日、小笠原に居る僕、それを本土の東京にいる僕はちょうど今僕が青いカメを見ている、この部屋の天井の右の方の隅から、物欲しげに見ているのだ。明晰に生きたい、明晰に生きたい、亡霊のようなその鳴き声をわかっているよと受け止めることは出来るけれども、それ以上進んでいかない。