目をつぶらない

文学を専門とする大学院生の日記です

31

それらの日々、浜辺から紫色で巨大に固まった雲がとどまっているのが見えた。それは凶兆そのもののように見えた。僕たちはその前でキスをしていたのだ。その雲の前に立つと、僕たちは僕たちの当為が、美しくすらある禍々しさに対して何らかの力を発揮しうるとは到底思えなかった。むしろそのような巨大に圧倒され、飲み込まれることを僕たちは願いすらしている。そして現にそのようなことが周りで起きつつある。

昨日妹が死んだ。妹はもう二三日前から行方不明だったけれども、それを僕は見つけることが出来なかったから僕の中ではまだそれはよくわからないことだった。けれどもふとしたことで、そういうことはあるものだなと思ったけれど、僕はこの部屋を使い始めてから今までの半年以上も、一度もやったことのない動作をして妹を見つけた、僕はベッドの下に手を入れたのだ。そうして見つけた妹は全身炭化していたけれど、安らかで、僕はこの二三日、僕の夢が安らかだったのは、僕が夜12時に今日も特に何もしなかったなと寂しくなって床に入る、それも仰向けに入る、その僕の後頭部から恐らく30cmも離れていないところにこのように安らかな妹が居たからなのだろうと思った。

日常に期待することはとうに辞めていた、ここ二ヶ月ほど猫としかしゃべっていない。その猫はある日崖から落ちるようにして空に落ちていって雲に吸い込まれていったけれど、その時僕が感じたのは、僕の身体の驚くべき重み、僕の身体が天に落っこちて雲の間を巡る、それを阻む重みだった。性欲を飼いならして久しいから、それはコンプレックスのように根深く取り巻くものではない。それではなくむしろ、ここにこのようにある意識を持って存在する限り有してしまう重みである。存在の耐えられない軽さなんて嘘、いい加減にしろよと思う僕、遠くから僕を見ている彼、海風は彼の甘い汗の匂いを孕む、それでもう生命の居なくなった海に僕はつま先から入っていく。