SUMMERY

目をつぶらない

滑らかに生きたい。明晰に生きたい。方途を探っています。

20

唐突に始まる意識の中で、私は真っ暗な部屋に居た様に思う。そこは私の実際の部屋よりも大きくて、窓から漏れる街灯の光に多くの書類が照らされ、その白が目に痛かった。男達が歌っているのが聞こえた。この部屋が二階だとするなら地下で、三階だとするなら地上一階で、声を合わせて歌っているのがかすかに聞こえる。それはトレンディドラマのセンチな主題歌のような、都会的なBGMにのった恋人の叫びだった、あのどれも同じ歌詞のやつ、暗闇の中でその音楽がうるさくて起きた癖に、妙に落ち着いてしまった私は、その曲から起きた、ちょうどそれと同じ様にその曲に帰っていくようなことを試みてベッドにもう一度潜り込むのだが、不思議とそれはベッドに潜り込んでもう一度寝るには、少しうるさすぎるのだ。

 明かりを付けようと手探りをし、それは甲斐なく終わる。私の部屋には光源はあるが、それらに至るスイッチにあたるものが、ことごとく私には思いあたらない場所に在るようで、途方にくれてしまう、暗闇の中で、私は少し考えた末に仕方ないと、それが役に立つかどうかということをあまり期待しないまま、パソコンのスイッチを入れようとする。私のバックで同一のメロディが繰り返し、物悲しいマンションに住む独身OLの生活にぴったりな一連の音、ということにしようという作曲者の意図が浮き彫りの、従って私自身もそのような物悲しさに容易に参入出来る、そのようなこの大きな都市の中の点景としての一人の自分を思い浮かべもするのだ、私はこの夢の舞台が恐らく90年代の前半においてあることを知る。それは「夢の舞台」ということでその時の私に意識されるというよりは、これが90年代の前半であるとそれが私のセンチメンタルな気分にとても都合がよいというそのような勝手から逆算されるようにして行われ、それとともに聞こえてくる曲はいよいよ高階にあると仮定したときのこの部屋に対して、相対的に低いところで行われているパーティーの残滓としての騒音という最初の設定から徐々に遊離し、この一連の風景を眺める、眺める私の頭の中に流れる曲へとゆっくりと接続していく。

 パソコンのパスワードは何度入れても間違っており、私はこの部屋の全ての機能から断たれていることを知る。そして私はそのことに焦りながら、一方でここで作り出された都市的孤独に酔うようにして、再び落ち着いてパスワードを入力するのだ。しかしそれは拒絶される。拒絶されることが、この雰囲気にとってちょうど良いようなのだ。私のこの夢は外で歌う若者達の歌に始まり、そしてそれが私の意識に浸食するような形でその様々な設定が流れる様に曲に合わせて動いていた。